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椎葉を歩く

初めて訪ねたおよそ20年前、日本人の心は椎葉にあり、と思った。宮崎県東臼杵郡椎葉村である。九州山地の腰骨当りに位置する椎葉村は、離島を除けば我が国有数の僻地であろう。しかし今、僻地にこそ、日本人を支える魂が存在する。
椎葉村を訪ねようとすると、日向市から耳川沿いに国道269号線を車で約2時間。宮崎市からだと3時間半の行程である。諸塚村を過ぎた当たりから急に道幅が狭くカーブも多くなる。
右側に切り立った岩肌、左の谷底に耳川が流れる。村の人口、3700人余。それでも20年前は1万人を超える人々が居た。1960年代の日本近代経済黎明期、金の卵ともてはやされて中学校を卒業すると高校へ行くことなど考えもせず、阪神、京浜の労働者として故郷を出て行った若者たち中には、再びふるさと椎葉へ帰って来なかった者も多い。